その年のクリスマス・イブは、私には重(おも)苦(くる)しいほど明るかった。町を華やかに飾るライト。店頭に並ぶケーキ。 那年的聖誕夜,我感到明顯沉重的痛苦。繁華的街道上裝飾著彩燈。商店裡排列著蛋糕。
プレゼントの袋を手に、無表情だけどどこかうきうきした人々。 手上拿著禮袋、僅只是面無表情、行色匆匆不知要去哪裡的人們。
前の年にはこの明るさの源の一組として、共に楽しいひとときを過ごした夫は、出張していた。むしろこの年こそ、彼にそばにいてほしかった。 前年,作為明亮來源的一組,共同享受著一時的生活,丈夫正在出差。勿寧說是正因為這一年,更想要他在身旁。
前の週、私は、私に宿っていた新しい命を失った。特に前兆もない突然のことだった。 上個星期,我,失去了寄住在我腹中的新生命。尤其是沒有任何前兆突然發生的事。
「残念ですが、卵が育っていないようです。」 「可惜啊,就像無法孵化的蛋。」
それを医師に知らされてから、私の意識は体の中心に向かって旅だってしまって、現(げん)実(じつ)が夢のようでしかない。 那是在醫師知道之後,我的意識朝向身體的中心在旅行,現實就像作夢一樣。
手術は翌日。今度も心拍が確認できなかったら、お腹を空っぽにされる。 手術後的第二天。如果這次也不能確認脈搏的話,肚子就要被挖空了。
街に光を吸い取られたように心は闇に沈む。 在街上,就像光被吸收了那般,心情沉重陰暗。
後ろ向きの言葉ばかりが、頭に浮かぶ。 腦袋裡浮現的,光只是負面的言語。 (うしろむき [後ろ向き] 時代の流れや望ましい方向に対して逆の方へ向いていること。考え方などが消極的なこと。)
ーー日本人はなぜこんなにクリスマス気分に浮かれるの? 日本人為何有那樣的聖誕氛圍呢?
宗教となんの関係もないのに。 跟宗教也沒有關係。
サンタクロースというアイドルを外国から無節操に受け入れて意味もなく楽しんでいるだけじゃあい。 聖誕老人是來自外國的偶像,只是毫無節操地接受,沒有任何意味的享受不是嗎。
伝統的な料理があるわけでもなく、ごちそうならなんでもよくて、しめくくりに季節外れのいちごののったケーキを食べて、子供にプレゼントをやって、それで満足してるだけ。--
因為沒有傳統的料理,如果只是請客那樣的話還好,吃著已經結束在季節外登場的草莓蛋糕,送給孩們禮物,這些僅只是為了滿足。
そんな批評めいた言葉をずっと昔、彼に向けたことがあったっけ。こういう考え方、ほんとは好きじゃないのに。自分が子どもだと思われたくなかっただけ。思い返すとすごく恥ずかしい。 很久以前,曾經朝向他,那樣具有批評的言語。像這般的想法,其實只是因為不喜歡罷了。只是不想被認為自己只是個孩子。回想起來相當地可笑。
彼は言った。 他說過。
ーークリスマスなんて、全世界見たって、みんな好き勝手な理由つけて視ってるものだよ。サンタだって国によっていろいろなイメージがある。 聖誕節啊,全世界都看得到,附上大家自我放縱的理由。由於各國的聖誕老人,具有各式各樣的形象。
みんなサンタと呼ばれてるわけじゃないし、プレゼントを配って回るのはクリスマス・イプとは限らない。 因為被大家叫做聖誕老人,到處去分配禮物並非就是聖誕夜。
でも、クリスマスの一番大事なエッセンスは、みんな同じ。 (エッセンス【essence】本質的なもの。最も大切な要素。精髄。) 但,聖延節最重要的精髓,每個人都一樣。
他の誰かのことを考えるってことだ。必ずしもキリスト教を意(い)識(しき)する必要はないんだ。 任誰都會想到的事情。並非一定得知道基督教的意義。 (かならずしも [必ずしも~ない] 不一定非~;未必~。)
デンマーク (Denmark )には、「サンタ」を助けるニッサという小人がいるんだよ、と彼は教えてくれた。屋根裏に住んでいて、クリスマス・イプには、お米から作った甘いおかゆを食べに出てくるんだって。 他告訴我,在丹麥,有幫助「聖誕老人」的尼森喔。他們住在屋頂,在聖誕夜,用米作出食用的甜糯米粥。
そのおかゆは、デンマークのクリスマスには欠かせないデザートだ。皆で食べる前に、アーモンドを一粒入れておく約束になっている。 這個甜糯米粥,是丹麥的聖誕節不可缺少的甜點。大家在吃之前,約定好先放一顆杏仁果進去。
自分の皿にアーモンドが入っていた人には、幸運が訪れるという。 在自己的盤子裡放入杏仁果的人,說是會有好運來造訪。
ーーニッサは、そのおかゆが大好きなんだ。-- 尼森,非常喜歡這個糯米粥。
子供の頃かの地に暮らしたことのある彼は、まるでニッサを見たことがあるかのように、うれしそうに語った。 在孩提時期生活過的土地的他,簡直就像是曾經見過尼森般,興奮地說著。
彼を好きだと思ったのは、そのときだ。 我想就在那個時候,喜歡上他。
夫となった彼は、今、デンマークに行っている。 成為丈夫的他,現在正在丹麥。
「クリスマスに一緒にいられなくて、ごめんな。ニッサに代わり頼もうか。」 「因為聖誕節不能一起去,對不起。拜託尼森代替吧。」
と申しわけなさそうに、でもいたずらっぼく笑った彼。 說了抱歉,但是他惡作劇地笑我。
出発前はまさかこんなことになるなんて、二人とも思っていなかった。喜びに胸膨らませながら、彼と一緒に飾ったツリー (tree) に目が行った。 在出發前,二個人從來沒有想過,事情會變成這樣。儘管充滿著喜悅,心想和他一起裝飾聖誕樹。 (目が行く 心が引かれて、視線を向ける 因為心被牽引,朝著視線。)
ライトはこの一週間点されず、部屋の片隅をいっそう暗くしていた。 這一個星期沒有點上彩燈,在房間的角落一片黑暗。
ライトをつけたときの彼の笑顔がぼっと浮かんだ。 打開彩燈時,浮現出他的笑臉。
彼の不在を恨 (うら) むより、この不幸を遠い地の電話で受け止めた彼の気持つを思いやろう。そう思ったとき、ツリーの下に、動くものを見た。 比起埋怨他不在,因為接到這個來自遠地的不幸的電話,我擔心他的情緒。正在想著時,在樹的下面,看見了移動的東西。 (うけとめる [受け止める] <他下一> 1. 接住;擋住 2. 阻止;阻擋; 阻擊。)
ーーニッサ。 是尼森。
彼の言っていたとおりだ。 就像他說的那樣。
赤いとんがり帽子をかぶり、白く長いあごひげをはやしてる。 戴著紅色的帽子,白白長長的大鬍子。 (あごひげ [顎鬚] 大鬍子、はやす [生やす] <他五> 使生長;種;(留) 鬍子。)
服は灰色。脚には赤いタイツ。 灰色的衣服。腳上紅色的褲襪。
ニッサは私と目が合うと、ぴょん、と後ずさりした。 尼森和我對看後,輕快地往後退。 (ぴょん 身軽に飛び跳ねるさま,身輕地飛跳的樣子、あとずさり [後ずさり] (~する) 向後退;往後倒。)
普(ふ)段(だん)、人に姿を見せないはずだから、臆(おくす)したのだろう。 我猜想,平時,人應該不能看見牠的身影吧。
が、すぐに、びょこん、と前に進んだ。 但是,立刻地,牠飛快地往前進。
ぴょん、ぽん、ぽ、ぴょん、とジグザグに跳ねて、私の前で止まった。 飛快曲折蜿蜒地跳來跳去,停在我的面前。
ニッサは、上(かみ)半(はん)身(しん)をちょっと傾(かたむ)け、私の顔をのぞき込んだ。また一歩下がり、横を向く。あごのひげをひっぱりながら、言いたいことがありそうに、こちらをちらちらと見た。 尼森,上半身稍稍地往前傾,打探了一下我的臉。又往下一步,往橫走。一邊拉著鬍子,就像想說些什麼,閃閃爍轢地看著那裡。
顔は、彼の亡くなったおじいさんに似ていると思った。 臉,我覺得和他死去的祖父相似。
世の中をよく知り楽しんでいるようないたずらっぽい目。 就像享受著熟知的世界那般,惡作劇般的眼神。
背(せ)丈(たけ)は、そう、猫くらいかな。 身長,大概像貓那般。
ニッサと言えば、おかゆ。おかゆがほしいのかもしれない。 提到尼森,就想到甜糯米粥。或許牠想要甜糯米粥。
以前彼が作ってくれたときには、シナモンと砂糖をたっぶりかけても、牛乳臭さが私の口に合わなかったけれど。 以前他為我做的時候,即使加了很多的肉桂和砂糖,但牛奶的味道卻還是不合我的口味。
今から作って、ニッサは待ってくれるだろうか。 現在開始做,尼森會等著嗎。
そうだ、同じお米が材料で、甘いのだからーー 對了,用相同的米和配料,還是甜的。──
「おはぎ、食べる?」 「黃豆餅,要吃嗎?」
私は低いテープルの上にあった箱をさし出した。 我把矮桌上的箱子拿出來。
世の中に逆らいたくて、買ってきてあった。 因為我想違抗世界,就買了。
特に食べたかったわけではなかったので、まだ包まれたままだ。 特別是因為並沒有特別想吃,還是那樣包著。
急いで包みを開ける。 迅速地打開包裝。
その間にニッサは、テープル下に押し込んであったダンボール箱を勝手にずりずり引き出し、上に乗った。 在那個時候,尼森,在桌子下面,引出推進在廚房的紙箱, 坐在上面。
そのダンボール箱は、最新の事情を知らない友人が、親切に妊娠と出産の木をまとめて送ってくれたものだった。 那個紙箱,不被知道是最新的事情,友人親切地收集了懷孕和生產的樹木送給我的東西。
だけどニッサがそれに乗っておはぎを品定めしている光(こう)景(けい)は、かなしいよりおかしい。 但是,尼森正坐在黃豆餅上評定的景象,比起好笑更感到悲傷。 (しなさだめ [品定め] 評定。)
かちこちになっていた私の頰が、久(ひさ)々(びさ)にゆるむ。 到處都是我的臉頰,久久之後才鬆弛下來。 (ゆるむ [緩む] <自五> 1. 鬆 2. 鬆懈;鬆弛 3. 緩和。)
ニッサはあんこの色を見て、ちょっと眉(まゆ)をつり上げた。 尼森看到餡的顏色,稍稍抬起了眉毛。
きなこのかかったのとあんこで包(くる)まれたのを交(こう)互(ご)に指(ゆび)でつつき、やがてきなこの方を小さな両手でつかみ上げた。 被黃豆粉和豆沙包裹著,交互地用手指戮著,不久用雙手攫起黃豆粉的一邊。
(這句很難翻譯,形容黃豆餅的部分有點難理解。看圖是指尼森兩手抓著黃豆餅,掛在嘴上吃的模樣。)
私はニッサに小皿を渡した。 我遞給尼森一個小盤子。
ニッサはダンボール箱に腰をかけ、手についたきなこを舐(な)めている。 尼森坐在紙箱上,正舐著手上的黃豆粉。
私はニッサが牛乳も好きだったことを思い出し、ぐい呑みにいれて持ってきてやった。 我想到尼森也喜歡牛奶,就裝在缽裡拿給牠。
食欲はなかった。でも、ニッサにつきあおうと、私も残ったあんこのおはぎを取り、口に運んだ。 沒有食欲。但,隨著尼森一起,我也拿出剩餘包餡的黃豆餅,送到口中。
甘い。のどの奥に固(かた)まっていた苦さが押し流されるようだ。 好甜。在喉嚨的深處,已經硬化的苦味,似乎被一掃而空。 (おし‐ながす [押し流す] 水流の激しい勢いで物を運び去る,強勢激烈的水流把東西運走。)
二口目でなにかが歯に当たったので、横を向いて口から出してみる。 第二口有什麼在牙齒的當中,試看看從橫向的口中出來。 (真的好拗口的句子,沒辦法為了學習,就直譯囉~)
アーモンドだった。おはぎの中に、アーモンド。 是杏仁果。在黃豆餅的當中,
ねっとりのなかに、ごろんとした もの。 有些黏黏的、滾動的東西。 (ごろんとした 其實沒有找到這個語彙,ごろ有滾動的意思,就先暫時這樣翻吧。)
ふと、ニッサを見た。 突然,尼森看到。
ニッサは、真ん中のあんこを残しておはぎをきれいに食べ終わり、今はぐい呑みを抹茶椀のように持って牛乳を飲みほしているところだった。 尼森,乾淨地吃完,剩餘的中間包著餡的黃豆餅。現在就像拿著抹茶碗般的缽,正要把牛奶喝光。
私の視線に気づき、手の中のアーモンドを見ると、と笑った。 注意到我的視線,看到手中的杏仁果時,笑了。
髭(ひげ)がきなこにまみれている。 鬍子沾上了黃豆粉。
「ティリケ」 (是丹麥文嗎?)
「おめでとう」? 「恭喜」?
私がもう一度アーモンドを見つめ、顔を上げたときには、ニッサはいなかった。 當我再次尋找杏仁果時,抬起頭來,尼森不見了。
ーー翌(よく)日(じつ)判(はん)明(めい)。お腹の中の命は、生き続けていた。 第二天發現。腹中的生命,倖存了下來。
真ん中あたりがびくびく光る白いアーモンドのような超(ちょう)音(おん)波(ぱ)画(が)像(ぞう)を見て、私は泣いた。 看到在超音波當中的圖像,如同杏仁果般閃爍著跳動的白光,我哭了。
出張から帰ってきた彼のおみやげは、木彫りの置物。 他出差回來的禮物,是木雕的俑。
なぜか口の周りのひげが黄色い、ニッサのーー 為何在嘴巴的四周的鬍子是黃色的,是尼森──
很久沒有翻譯電子繪本了,這篇的內容有點難懂,有些語彙找不到意思,大致上瞭解故事的意思,但句子還是要再經過修飾,先暫時翻譯這樣,等日後有空看過之後再來修改。
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