日文電子繪本:ねずみの相撲
(老鼠的相撲)
うららかな春のこと。アズミ爺さんは畑を耕していました。 一個風和日麗的春天時節。安住敦爺爺正在耕田。
長い冬のあいだに、すっかり固くなってしまった地面をほっこおりと耕して、種をまくのです。 在長長的冬天期間,耕種著已經完全變得堅固結冰的地面,埋著種子。
せっせせっせと鍬をふるっているうちに、太陽は天のまんなかに昇りました。 正揮著鋤頭的時候,太陽昇到了空中。 (日正當中)
「さあて、めしにするか」
アズミ爺さんは木陰に座ると、お婆さんが作ってくれた粟餅を食べ始めます。 安住敦爺爺坐在樹陰下,開始吃著老婆婆作的粟餅。
「ばあさんの粟餅は、天下一品の味だな」 「老婆婆作的粟餅,是天下一品的味道哪」
ひとりごとを言いながら食べていると、ハツカネズミが一匹、ちょろりと出てきました。ねずみは目をまんまるにして、口をひくひくさせながら、粟餅を見つめます。 一個人邊說邊吃的時候,一隻老鼠,剛好走了出來。老鼠張大了眼睛,
「おまえ、腹がへってるのか? 婆さんの粟餅が食いたいか。よしよし、相伴させてやろう」
アズミ爺さんは、粟餅をちぎると、ねずみに投げてやりました。ねずみは、さもおいしそうに粟餅を食べると、ぴょこりと頭をさげて言いました。
「ごちそうさま。大変おいしい粟餅でした。何かお礼をさしあげたいと思いますので、私たちの国に来てください」
「おやまあ、おまえはわたしと同じ言葉か話せるのかい」
びっくりしながらも、アズミ爺さんは聞きました。
「あんたたちの国って、どこにあるんだね」
「ここです、ここです」
ねずみは足元の、穴を示します。酒を入れる徳利の口よりも少しだけ大きな穴でした。
「気持ちはうれしいがね、ねずみさんよ」
アズミ爺さんは笑って言いました。
「わたしが、こんなに小さい穴に入れるわけがないじゃないか」
「入れます、入れますとも。簡単なことなんです。わたしのしっぽにつかまって、目をつぶってくださいな」
「ためしてみるか」
と思ったアズミ爺さんは、針金みたいに細いしっぼにつかまると、目をつぶります。
すとーん!吸い込まれるような気持ちがしたあとで、アズミ爺さんのお尻はやわらかい地面に受け止められました。
地面の奥にある、ねずみの国に着いたのです。
「なんと、立派なところではないか」
アズミ爺さんは目を丸くして、あたりを見回しました。
「ねずみの国の、国技館です」
さっきのねずみに説明されるまでもなく、アズミ爺さんには分かりました。
土俵を囲んで、四方に見物席がある国技館を、何回となくテレビで見たことがあったからです。
「あんたたちも、相撲をとるのかい」
いつの間にか、アズミ爺さんの体はちぢまって、ねずみが大きく見えます。自分は今、猫くらいの大きさになっているのだ……
アズミ爺さんは思いましたが、言葉にはしませんでした。
ねずみたちが、猫を嫌いぬいていることを、よく知っていたからです。
土俵の上には、たくさんのねずみがいました。十匹も二十匹ものねずみが次々に現れては、勝手に相手を決めて、勝手にとっくみ合うのです。誰が勝って誰が負けたのか、まるで分かりません。
「おいおい、ねずみのお相撲さんたちよ」
アズミ爺さんは大声で言いました。
「すもうは、もっときちんと勝負けするものだ。順番を決めて、二匹すつが土俵にあがって戦うものなんだよ」
「そうでしたか、ちっとも知りませんでした」
ねずみたちは、あずみじいさんのそばに集まると、真剣な顔でたずねます。
「それで? 二匹のどちらが勝ちで、どちらが負けかは、どうやって決めるんですか」
「決まってるじゃないか、行司が……」
でも、ねずみの国技館に、行司はいません。ねずみたちは、行司が必要なことも知らなかったのです。
「お願いがあります、おじいさん」
ねずみたちが言いました。
「わちゃしたちは、国技らしい、立派な相撲をとってみたいと思います。けれど、行司がつとまるねずみはいません。おじいさんに、行司をつとめていただきたいのです。」
「わたしに行司を?」
アズミ爺さんの胸がはじっこの方からほんのりと染まっていきます。ずっとずっと昔の夢が、よみがえってきたのでした。
北国の小さな村で生まれたアズミ爺さんが「相撲」を見たのは小学生になったころのことです。本物をみたわけではなく、ところどころ画面に筋が入る、古いテレビでの放送でした。
古いテレビでの放送でした。が、力いっばいに戦う力士たちは華やかでりりしく、男の中の男に思われたのです。
「大きくなったらおすもうさんになりたい」
アズミ爺さんはあこがれました。けれど、夢ははかなく消え去ったのです。
中学生になっても、体は学年中でいちばん小さく、力持ちでもない男の子が、力士になど慣れっこないことはすぐに分かりました。
「お相撲さんがだめなら、行司になりたい」
おごそかな声を張り上げて土俵を仕切る行司が、次の的になりました。
が、そのあこがれも、あっけなく消え去ってしまったのです。
アズミ爺さんが生まれ育った村は、都会からは遠く離れていました。
国技館も相撲も、てれびでくりひろげられる世界でしかなかったのです。貧しいその日暮らしでは、あこがれの場所や人をたしかめる旅をすることもできません。
力士も行司も夢のまた夢で終わってしまいました。
その夢が、今かなうのです。
「どうか行司をつとめてください。お願いします」
ねずみたちはまじめな顔で、ひょこりと頭をさげました。
「いいともさ。喜んでつとめさせてもらおう」
アズミ爺さんは、腰の後路にはさんでいたうちわをにぎりしめると、土俵にのぼって行きました。
それからは、見様見真似です。はっけよいよい、みあってみあって。
突き出しにおしたおし、おしだしにせおいなげ……
昔おぼえた言葉をたよりに、一生懸命行司役をつとめたのです。
「こんなに楽しいすもうが取れたのは初めてでした。ありがとうございます」
全員の取り組みが終わると、ねずみたちはアズミじいさんにお礼を言いました。
「こちらこそ。面白い、しあわせなひとときをすごさせてもらったよ」
お礼のしるしにと、ねずみがくれたのは、濃い緑色の石です。
石をふところに入れたアズミ爺さんは、ねずみのしっぼにつかまって、もとの畑にもどったのでした。
「夢見たいなできごとだったけど、夢ではなかったんだ」
帰り道をたどりながら、アズミ爺さんのほおに笑いがこみ上げます。
緑色の石を取りだしておばろ月にすかすと、はっけよいよいとすもうをとっていたねずみたちの姿が浮かんでいるようでした。
それから何回も、アズミ爺さんはねずみたちの国技館に行きました。
ねずみたちはすもうの大会を開くたびに、アズミ爺さんを呼びにきたからです。
春が終わって夏が始まり、たんぼの稻がぎっしりと実をつけた秋になるころ、ねずみの力士たちは新しいまわしをつけるようになりました。
アズミ爺さんの連れ合いの止め婆さんが、木綿の糸をより合わせてこしらえた色とりどりのまわしです。
アズミ爺さんのうちわも新品になりました。
新品になったのは、うちわだけではありません。吹き飛びそうだったアズミ爺さんのあばら家も、よれよれだったトメ婆さんの着物も、見違えるほど立派な、新しいものになったのです。
うららかな春のこと。アズミ爺さんは畑を耕していました。 一個風和日麗的春天時節。安住敦爺爺正在耕田。
長い冬のあいだに、すっかり固くなってしまった地面をほっこおりと耕して、種をまくのです。 在長長的冬天期間,耕種著已經完全變得堅固結冰的地面,埋著種子。
せっせせっせと鍬をふるっているうちに、太陽は天のまんなかに昇りました。 正揮著鋤頭的時候,太陽昇到了空中。 (日正當中)
「さあて、めしにするか」
アズミ爺さんは木陰に座ると、お婆さんが作ってくれた粟餅を食べ始めます。 安住敦爺爺坐在樹陰下,開始吃著老婆婆作的粟餅。
「ばあさんの粟餅は、天下一品の味だな」 「老婆婆作的粟餅,是天下一品的味道哪」
ひとりごとを言いながら食べていると、ハツカネズミが一匹、ちょろりと出てきました。ねずみは目をまんまるにして、口をひくひくさせながら、粟餅を見つめます。 一個人邊說邊吃的時候,一隻老鼠,剛好走了出來。老鼠張大了眼睛,
「おまえ、腹がへってるのか? 婆さんの粟餅が食いたいか。よしよし、相伴させてやろう」
アズミ爺さんは、粟餅をちぎると、ねずみに投げてやりました。ねずみは、さもおいしそうに粟餅を食べると、ぴょこりと頭をさげて言いました。
「ごちそうさま。大変おいしい粟餅でした。何かお礼をさしあげたいと思いますので、私たちの国に来てください」
「おやまあ、おまえはわたしと同じ言葉か話せるのかい」
びっくりしながらも、アズミ爺さんは聞きました。
「あんたたちの国って、どこにあるんだね」
「ここです、ここです」
ねずみは足元の、穴を示します。酒を入れる徳利の口よりも少しだけ大きな穴でした。
「気持ちはうれしいがね、ねずみさんよ」
アズミ爺さんは笑って言いました。
「わたしが、こんなに小さい穴に入れるわけがないじゃないか」
「入れます、入れますとも。簡単なことなんです。わたしのしっぽにつかまって、目をつぶってくださいな」
「ためしてみるか」
と思ったアズミ爺さんは、針金みたいに細いしっぼにつかまると、目をつぶります。
すとーん!吸い込まれるような気持ちがしたあとで、アズミ爺さんのお尻はやわらかい地面に受け止められました。
地面の奥にある、ねずみの国に着いたのです。
「なんと、立派なところではないか」
アズミ爺さんは目を丸くして、あたりを見回しました。
「ねずみの国の、国技館です」
さっきのねずみに説明されるまでもなく、アズミ爺さんには分かりました。
土俵を囲んで、四方に見物席がある国技館を、何回となくテレビで見たことがあったからです。
「あんたたちも、相撲をとるのかい」
いつの間にか、アズミ爺さんの体はちぢまって、ねずみが大きく見えます。自分は今、猫くらいの大きさになっているのだ……
アズミ爺さんは思いましたが、言葉にはしませんでした。
ねずみたちが、猫を嫌いぬいていることを、よく知っていたからです。
土俵の上には、たくさんのねずみがいました。十匹も二十匹ものねずみが次々に現れては、勝手に相手を決めて、勝手にとっくみ合うのです。誰が勝って誰が負けたのか、まるで分かりません。
「おいおい、ねずみのお相撲さんたちよ」
アズミ爺さんは大声で言いました。
「すもうは、もっときちんと勝負けするものだ。順番を決めて、二匹すつが土俵にあがって戦うものなんだよ」
「そうでしたか、ちっとも知りませんでした」
ねずみたちは、あずみじいさんのそばに集まると、真剣な顔でたずねます。
「それで? 二匹のどちらが勝ちで、どちらが負けかは、どうやって決めるんですか」
「決まってるじゃないか、行司が……」
でも、ねずみの国技館に、行司はいません。ねずみたちは、行司が必要なことも知らなかったのです。
「お願いがあります、おじいさん」
ねずみたちが言いました。
「わちゃしたちは、国技らしい、立派な相撲をとってみたいと思います。けれど、行司がつとまるねずみはいません。おじいさんに、行司をつとめていただきたいのです。」
「わたしに行司を?」
アズミ爺さんの胸がはじっこの方からほんのりと染まっていきます。ずっとずっと昔の夢が、よみがえってきたのでした。
北国の小さな村で生まれたアズミ爺さんが「相撲」を見たのは小学生になったころのことです。本物をみたわけではなく、ところどころ画面に筋が入る、古いテレビでの放送でした。
古いテレビでの放送でした。が、力いっばいに戦う力士たちは華やかでりりしく、男の中の男に思われたのです。
「大きくなったらおすもうさんになりたい」
アズミ爺さんはあこがれました。けれど、夢ははかなく消え去ったのです。
中学生になっても、体は学年中でいちばん小さく、力持ちでもない男の子が、力士になど慣れっこないことはすぐに分かりました。
「お相撲さんがだめなら、行司になりたい」
おごそかな声を張り上げて土俵を仕切る行司が、次の的になりました。
が、そのあこがれも、あっけなく消え去ってしまったのです。
アズミ爺さんが生まれ育った村は、都会からは遠く離れていました。
国技館も相撲も、てれびでくりひろげられる世界でしかなかったのです。貧しいその日暮らしでは、あこがれの場所や人をたしかめる旅をすることもできません。
力士も行司も夢のまた夢で終わってしまいました。
その夢が、今かなうのです。
「どうか行司をつとめてください。お願いします」
ねずみたちはまじめな顔で、ひょこりと頭をさげました。
「いいともさ。喜んでつとめさせてもらおう」
アズミ爺さんは、腰の後路にはさんでいたうちわをにぎりしめると、土俵にのぼって行きました。
それからは、見様見真似です。はっけよいよい、みあってみあって。
突き出しにおしたおし、おしだしにせおいなげ……
昔おぼえた言葉をたよりに、一生懸命行司役をつとめたのです。
「こんなに楽しいすもうが取れたのは初めてでした。ありがとうございます」
全員の取り組みが終わると、ねずみたちはアズミじいさんにお礼を言いました。
「こちらこそ。面白い、しあわせなひとときをすごさせてもらったよ」
お礼のしるしにと、ねずみがくれたのは、濃い緑色の石です。
石をふところに入れたアズミ爺さんは、ねずみのしっぼにつかまって、もとの畑にもどったのでした。
「夢見たいなできごとだったけど、夢ではなかったんだ」
帰り道をたどりながら、アズミ爺さんのほおに笑いがこみ上げます。
緑色の石を取りだしておばろ月にすかすと、はっけよいよいとすもうをとっていたねずみたちの姿が浮かんでいるようでした。
それから何回も、アズミ爺さんはねずみたちの国技館に行きました。
ねずみたちはすもうの大会を開くたびに、アズミ爺さんを呼びにきたからです。
春が終わって夏が始まり、たんぼの稻がぎっしりと実をつけた秋になるころ、ねずみの力士たちは新しいまわしをつけるようになりました。
アズミ爺さんの連れ合いの止め婆さんが、木綿の糸をより合わせてこしらえた色とりどりのまわしです。
アズミ爺さんのうちわも新品になりました。
新品になったのは、うちわだけではありません。吹き飛びそうだったアズミ爺さんのあばら家も、よれよれだったトメ婆さんの着物も、見違えるほど立派な、新しいものになったのです。
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